2年後のロンドン五輪を見据えた、各国にとっては緊張感ただようシミュレーションレースだった。レース会場はロンドン市内でも2番目に大きい「ハイドパーク」。昔貴族が狩猟で使った跡地を公園にしていて、公園内で51.5kmのレースができてしまうほどの大きな公園だ。気温は24度。時折吹く風と、乾燥した空気で日陰ではさらに寒さを感じる日だった。
現地時間の13時06分に65名の女子選手が一斉スタート。ア本選手は真ん中からスタート。隣には、スイムをトップ集団であがってくるオーストラリアの選手で申し分ないポジションだった。課題のひとつだったスタートの飛び込みも比較的うまくいき、第一ブイまでの270mは先頭集団のいい位置取りをしていた。その後、ブイ周りでバトルにあい「もみくちゃ」にされて、後退。なんとか先頭パックの後方で展開する。
しかし、後半のこり300m付近で、双眼鏡から見るア本選手の泳ぎが小さくみえることに、少し胸騒ぎを感じた。”バイクスタートしてからの1周を集中させなければ”と思い、バイクスタートラインの500m先のコース上に観戦場所を移し、待機。選手たちがスイムをフィニッシュし、次々とバイクにまたがりバイクコースに出て行く。ところが、先頭集団らしき10数名が通過してもア本の姿が確認できなかった。”見過ごしてしまった”と通り過ぎた選手の後姿を追っていると、なんと横から単独で重たそうにペダルを踏んでくるア本選手が傍らを通りすぎていった。
”まずい!”
彼女に起こったアクシデントが把握できず、ただただ前との差をストップウオッチで確認する。トップとはすでに2分近く差がついてしまっていたが、20秒先にバイクの強い上田選手を含む4名の集団がいた。8周回のバイクパート。目の前を通りすぎるたびに、上田選手の集団との差を伝える。前から落ちてきたアイルランドの選手と2名で前を追うが、勢いがない。結局、メイン集団に入れず、レースから脱落してしまった。その後も、ア本選手は走り続け、何とかゴールすることができた。
アクシデントの理由は、スイムで身体が冷えてしまい、バイクスタートした際、平衡感覚が失って転倒してしまい、その際にバイクシューズが外れてしまって立て直しに時間がかかってしまった様子。6月からの充実したトレーニングで、身体がランナーのように絞れてきていて、ある程度の脂肪がついたスイマー時代と違い、低水温に対する防衛力が落ちている。それくらいよく絞れているということであるし、次回のレースでは繰り返さないように、これまで以上に対策をとっていきたい。
今回の遠征期間中、ロンドン事務所の社員が酸素プラスを差し入れしてくださり、ア本選手はもちろんのこと私も大きな力をいただいた。応援してくださる社員や関係者の期待に応えられなかった悔しさがあるが、2年後の大きな成果を得るためのひとつ経験であり、今のア本選手やチームに必然だったと考えている。
(陶山 昌宏)
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